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Monday, June 19, 2023

和菓子をよく知るためのヒント さまざまな種類の分類法 - 朝日新聞デジタル

和菓子の世界に一歩踏み込んで、のぞいてみませんか――。和菓子は江戸時代、老若男女を問わず楽しまれた身近な存在でした。和菓子は今も進化を続け、移り変わる季節を表現する「五感の芸術」としても親しまれています。案内役は虎屋の資料室「虎屋文庫」の相田文三さん。「和菓子の教科書」では、設立50周年を迎えた虎屋文庫の資料などをもとに、奥深くて楽しい和菓子の世界をご紹介します。

今回は和菓子の種類についてご紹介しましょう。

第2回の記事で、江戸時代以前に日本で食べられていた菓子は全て「和菓子」というお話をしましたが、パッと思い浮かぶだけでも、美しい上生菓子から、饅頭(まんじゅう)、羊羹(ようかん)、大福、カステラにどら焼き、あめやあられ、せんべいに至るまで、和菓子は多種多様です。

目安の一つは「水分量」

これらを分類するため、菓子業界などで最もよく使われるのは、菓子に含まれている水分量を目安にする方法です。これは、水分量が日持ちやおいしく食べられるタイミングに関わるためと考えられます。

大まかに言うと、水分が多く含まれているものが「生菓子(なまがし)」、水分の少ないものが「干菓子(ひがし)」、中間のものが「半生菓子(はんなまがし)」となります。

また、製造方法で分類することもあります。具体的には、焼いて作るから「焼き菓子(焼き物)」、蒸すから「蒸し菓子(蒸し物)」、生地を容器に流して固めるから「流し物」などです。

さらに、生地や菓子の種類のまとまりで「○○類」と呼ぶこともよくあると言えるでしょう。例えば、「餅(餅菓子)類」「饅頭類」「羊羹類」「あめ(あめ菓子)類」などです。和菓子の分類表の詳細なものは、全国和菓子協会のホームページ「和菓子の種類」に載っていますので、ご興味のある方はぜひご覧ください。

同じ「桜餅」なのに異なる生地と製法

せっかく分類法をご紹介したので、身近な和菓子に当てはめてみましょう。少し時期が遅いですが、春に人気の定番菓子、桜餅を例に。まずは関東などでおなじみの小麦粉生地の桜餅から。

和菓子をよく知るためのヒント さまざまな種類の分類法
小麦粉生地の桜餅 虎屋文庫提供

水分量から分類するとあんこが多いこともあり「生菓子」です。製造方法は、包む生地を銅板で焼くことから「焼き物」。生地は小麦粉生地、あるいは桜餅種(さくらもちだね)などと呼ばれています。

続いて関西を中心に広まるもう一つの桜餅、道明寺生地の桜餅を見てみましょう。

和菓子をよく知るためのヒント さまざまな種類の分類法
道明寺生地の桜餅 虎屋文庫提供

水分量では同じく「生菓子」ですが、こちらは生地を蒸して作るので「蒸し物」になります。生地はもち米を蒸してから乾燥させて砕いた道明寺粉(どうみょうじこ)を用いるもので、もっちりつぶつぶした食感が特徴です。

さて、読者のみなさまはお気づきになられたでしょうか。菓子屋の人間があえて季節外れの桜餅を取り上げたのには、もちろん訳があります。

同じ「桜餅」にもかかわらず、製法も生地も異なり、これではまるで別の菓子です。

では逆に、なぜどちらも「桜餅」なのでしょうか?

一般的に「餅」というと、もち米を蒸してつき上げたものが思い浮かびますが、菓子屋では、うるち米の粉=新粉(しんこ)で作る新粉餅(かしわ餅などの生地)も定番で、餅類としてはこの2種類が代表的と言えます。

しかし、いずれの桜餅もこの二つには当てはまりません。この謎を解くには、やはり桜餅の歴史をたどる必要があるようです。

江戸時代に絶大な人気を誇った「桜餅」

桜餅は、江戸時代に江戸の隅田川沿いで生まれたと言われています。長命寺というお寺の門番が、土手の桜の葉っぱを活用して餅を挟み、「桜餅」として売り出した、というのです。当初のことは不明ですが、江戸時代後期の文献から、今で言う新粉餅で作っていた時代があったことがわかります。

また、別の書物によれば、ある店で1824年(文政7年)の1年間に38万個以上(1日あたり約1000個)も売れたそうで、桜餅が絶大な人気を誇った様子がうかがえます。

和菓子をよく知るためのヒント さまざまな種類の分類法
江戸名所百人美女 長命寺 売り子の女性が手に持っているのが、桜餅の入った竹籠 虎屋文庫提供

これだけ人気のある菓子でしたから、全国各地の桜の名所でもまねをして「桜餅」が作られるようになったようです。そしてそれぞれに工夫が重ねられ、桜にちなんだ菓子として進化を遂げる中で様々なバリエーションが生まれました。

先ほど触れた新粉餅の桜餅は現在も一部地域に残っていますし、かつては片栗粉を使った生地などもあったとか。結果として、小麦粉生地や道明寺生地のように餅類ではないものも含め、「桜餅」と呼ばれることになったのです。

ちなみに、道明寺生地の桜餅は意外と新しく、明治時代に京都を代表する桜の名所、嵯峨嵐山の名物として売り出されたとも言われています。

今回は桜餅を例に見てきましたが、他にもくず餅・わらび餅などいわゆる餅類ではない菓子が「餅」と呼ばれているように、和菓子の種類や分類はそれほど厳密ではなく、重複や齟齬(そご)もあるように感じられます。しかし、和菓子をよく知るためのヒントになることは間違いないでしょう。

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