『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』にて、「赤き月(ブラッディムーン)」を強制的に引き起こす手法が発見され注目を集めている。その挙動からは、赤き月が「ゲームに不具合が出そうな時の奥の手」の役割も兼ねている可能性や、ユーザーの没入感を大切にする思いやりの設計思想をも垣間見える。
『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』は、Nintendo Switch向けに発売中のアクションアドベンチャーゲームだ。『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』の続編にあたる。新作においては、ハイラルの地が突如として天変地異に見舞われる。城は宙へと浮かび上がり、空からは謎の遺跡群が降り注ぐ。大地と大空が広がった世界にて、“右手”に力を宿したリンクがハイラルの異変に立ち向かう。
赤き月を好きなタイミングで
本作においては多数の新要素が追加された傍ら、前作から続投している要素も数多くある。「赤き月」もそのうちの一つだ。前作および本作では、ゲーム内時間の1週間にいちど赤い月が昇り、0時になるとカットシーンが流れる。禍々しい演出と共に、倒したフィールド上の魔物たちが復活するという内容だ。なお魔物だけでなくフィールド上の一部アイテムなども復活するため、メリットもあるシステムとなっている。
本作において、赤き月を“任意で引き起こせる”という手段が発見され、注目を集めている。通常では1週間にいちど起こる赤き月のカットシーンを好きなタイミングで引き起こすことで、フィールド上の一部アイテムのリセットなどを手早くおこなえるわけだ。なお詳細は後述するが、この手法はゲームの動作を意図的に不安定にさせてメモリ不足を引き起こすと見られる。不具合を利用するいわゆるグリッチに類する点には留意されたい。
この手法では下準備として連射が可能な弓を装備し、破壊可能な岩がある場所に移動。そしてスクラビルドでオパールを付けた矢を、岩に対して弓スローにて連射する。水しぶきが連続で発生するため、エフェクトや広範囲の水濡れの処理からかゲームの動作が一気に重くなる様子が見られる。矢を撃ち終わると、1週間経過していなくとも、また0時にならずともすぐさま赤き月を発生させられるようだ。
なぜ急に赤き月が昇るのか
赤き月のカットシーンが周期から外れて異常なタイミングで発生した原因としては、“ゲームの動作が重くなったこと”が関係していると見られる。さらにいえば、異常発生する赤き月は、Nintendo Switchの「メモリを解放するため」あるいは「不具合をユーザーに意識させず回避するため」の内部的な処理を担っている可能性がある。
メモリとは、パソコンやゲーム機において実行中ソフトのデータを一時的に保存しておく場所。人間でいう短期記憶のような役割を担っており、ソフトの動作に必要なデータを素早く取り出して処理できるパーツとなる。そして、必要となるデータ容量が大きくなればなるほどメモリの使用率が高くなり、使用率が飽和すると動作が重くなる、あるいは停止してしまう。ゲームにおいてはメモリが足りなくなるほどの大きなデータ処理がおこなわれた場合、フリーズやゲームの強制終了を招く場合がある。そのため一定間隔でメモリが記憶しているデータを解放して、メモリ容量を確保する処理が必要となる。
あくまで挙動からの推察となるものの、『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』においては、メモリ解放の役割を赤き月が担っていると見られる。すなわち、ゲームが強制終了してしまうくらいなら、赤き月という現象のもとに“いったん全部リセット”して、パンパンになったメモリを整理しようという動作と見られる。そのため、メモリ使用量が急上昇して早急に解放する必要性が生じた場合には、1週間というゲーム内時間を経ずに赤き月が発生するようだ。先述のグリッチでは、水しぶきのエフェクトや判定を岩場で多段発生させて負荷の大きい処理を引き起こし、意図的にメモリ不足による赤き月を発生させていた格好となる。もしくは、メモリ不足以外に起因する処理上のエラーが引き金になっている可能性もあるだろう。いずれにせよ、バグによるゲームの強制終了やフリーズを未然に防ぐ施策を、ゲーム内の演出である赤き月として盛り込んでいるのだろう。
なお前作でも赤き月によってメモリ解放がおこなわれていることはユーザー間で推察されていた。「処理データ量の大きそうな場所を巡り続ける」あるいは「バクダン矢などで木を倒しまくる」といった状況で、1週間を経ずに赤き月が発生することが報告されていた。今作でも前作に引き続き、内部処理に異常が発生した際の保険というべき役割を赤き月が担っていると見られる。さらに今作では新要素によって、より手軽に赤き月を引き起こす手法が編み出されたわけだ。なお異常処理を意図的に引き起こすグリッチなので、利用する場合は留意されたい。
自由に遊べるシステムゆえに
前作および今作は物理演算をベースにしたシステムが特徴であり、その自由度ゆえにプレイヤーが通常のプレイから逸脱した、開発者が想定しない挙動を引き起こすことも比較的容易だ。そうした挙動は、ゲームの動作を止めてしまうような高い負荷をかける場合もある。そこで赤き月というギミックを用いて、強制終了やフリーズではない“仕切り直し”がおこなわれているのだろう。何が起きてもゲームが中断しないようにする施策と見られ、設計思想が垣間見える仕組みといえる。
ちなみに前作においても、通常のプレイではしないような手順が必要となるさまざまなグリッチが存在した。リンクがすさまじい勢いで飛んでいくような、物理演算のバグも見られた。そうした多種多様なグリッチがあったにもかかわらず、ゲームがフリーズに至るケースは比較的稀。こうした傾向からは「想定しない挙動が起きても、できるだけ大丈夫なように内部処理を設計する」という、前作からの開発思想も垣間見える。これにより物理演算のバグが起こった際に、“リンクが不可思議な挙動”を見せる代わりにフリーズまでは起こらない設計になっていたのかもしれない。
そのほか前作ではグリッチだけでなく、ユーザーによりさまざまな遊びも生み出されていた。開発者たちもユーザーの遊びを想定しており、 “おもしろい遊び”ができるかどうかを基準にあえて残された仕様もあるそうだ。
たとえばトロッコや鉄製の箱に乗ってマグネキャッチを使い、浮遊させるテクニックは意図的に残された仕様とされている(ファミ通.com)。一方でユーザーはこのテクニックを用いて「フライングマシン」を発明。これはスタッフ全員が絶句するほど、開発陣を驚かせたそうだ(日経クロストレンド)。そして前作におけるユーザーによる数々の発明は、前作および今作のディレクターを務める藤林秀麿氏にとって、今作のコンセプトに自信をもたせる反応でもあったという(関連記事)。
そうした経緯もあってか、今作にもさまざまな遊びが可能なシステムが用意されている。一方で物理演算をベースにした多彩な要素が絡み合うシステムでは、開発者が想定しきれないバグも起こりうる。1週間を待たずに到来する赤き月は、そんな時でもプレイヤーの没入感を損ねない気配りとして、また、幅広い遊びを可能にするシステムを下支えする心強い保険となる機能として用意されたのかもしれない。内部的な処理をゲーム内の世界観にマッチさせていると見られ、注目される作り込みのひとつだろう。
なお、類似した例としては初代PlayStation向けゲーム『どきどきポヤッチオ』にて、世界観と内部処理の都合を両立させたケースがあった。そちらでは「データロードの時間を稼ぐために、主人公の少年をこけさせる」という手法が利用されていたそうだ(関連記事)。こちらもプレイヤーへの気配りを感じさせる実装の一例だろう。
『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』はNintendo Switch向けに発売中だ。
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