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Friday, December 30, 2022

NASA、「ボイジャー1号」の不具合を約45年前のマニュアルで解決 - Business Insider Japan

解決策を求めて、古いマニュアルを発掘

ボイジャー1号が設計・建造されたのは1970年代初頭だったため、この探査船で発生したトラブルの解決に向けた取り組みは困難を極めた。

現在ボイジャーを担当しているエンジニアたちの手元にも、ミッションが始まってまもない時期から受け継がれたドキュメントが、ある程度は存在した(ボイジャーの設計や操作手順の詳細が書かれた書類は、専門用語では「コマンドメディア」と呼ばれる)。だが、いくつかの重要なドキュメントは、長い年月のあいだに、失われたり、保存場所がわからなくなったりしていた。

NASAの探査機「ボイジャー」の計器をチェックするエンジニア。1976年11月18日撮影。

NASAの探査機「ボイジャー」の計器をチェックするエンジニア。1976年11月18日撮影。

NASA/JPL-Caltech

ボイジャーのミッションが始まってから12年間で、関わったエンジニアの人数は数千人に及んでいたとドッドは語る。「こうしたエンジニアが引退した70年代から80年代にかけての時期は、プロジェクトのドキュメントをライブラリ化することは強く推奨されてはいなかった。自分が関わったプロジェクトに関する書類箱を自宅に持って帰り、ガレージに保存する人もいた」と、ドッドは付け加えた。近年のミッションでは、NASAもドキュメントをより確実な形で残している。

ただ、ジェット推進研究所の敷地外に、一部のドキュメントや図表を収めた箱が保管されていたため、ドッドをはじめとするボイジャープロジェクトの関係者は、これらの記録へアクセスすることができた。それでも、求める資料にたどり着くのは容易ではなかったという。「必要な情報を得るには、まず、プロジェクトにおける関係する分野の担当者の名前を突き止めなければならなかった」とドッドは説明する。

ボイジャー1号に最近発生した、テレメトリーデータに関する不具合では、現在このミッションを担当するエンジニアは、姿勢制御システムの設計に関わったエンジニアの名前が書かれている書類箱を探し出す必要があった。これは「時間のかかるプロセスだった」とドッドは振り返る。

古いマニュアルを参考に、不具合の原因が判明

NASAにテレメトリーデータを送っているボイジャー1号の姿勢制御システムは、宇宙空間におけるこの探査機の姿勢を表示し、同機の高利得アンテナが地球の方向を向くように調整し、地球に向かってデータを送信させる役割を担う。

「簡単に言うと、テレメトリーデータはこのシステムが正常に動いているかどうかを示すものだ」とドッドは説明する。だが、今夏の不具合が起きていた時期には、地上の担当者のもとに送られてくるテレメトリーデータがでたらめな状態になっており、姿勢制御システムが正常に機能しているかどうかがわからなくなっていた。

皿のような形をしたボイジャーの高利得アンテナの組み立てに携わるエンジニア。1976年7月9日撮影。

皿のような形をしたボイジャーの高利得アンテナの組み立てに携わるエンジニア。1976年7月9日撮影。

NASA/JPL-Caltech

ドッドをはじめとするミッションチームは以前から、これが部品の老朽化によって起きた現象ではないかと考えていた。「たとえ宇宙空間でも、すべてのものが永遠に機能し続けるわけではない」と、今夏の時点でドッドは述べていた。

エンジニアのあいだでは、この不具合は、星間空間でボイジャーが置かれた状況に影響されて起きたのではないか、との意見も出ていた。ドッドによると、星間空間には高エネルギーの荷電粒子が存在することが、ボイジャーのデータから示唆されるという。

「こうした粒子がボイジャーと衝突する可能性は低いが、万が一そうしたことが起きていれば、電子機器にさらなるダメージを与える恐れがある」とドッドは説明し、「これが今回の異常値の原因だと特定はできないが、要因のひとつである可能性はある」と述べた。

そして8月末になって、ボイジャーを担当するエンジニアチームは、データの不具合を引き起こしていた領域を特定した。姿勢制御システムは、もはや動かなくなったコンピューター経由で情報を伝達していたのだ。この現象は、この探査機に搭載されている別のコンピューターからの誤った命令によって引き起こされたと、チームは考えている。

「テレメトリーデータが復旧したことをうれしく思っている」と、8月に発表されたNASAの声明の中で、ドッドは語っている。それでも、そもそもなぜこのような現象が起きたのか、根本の原因についてはチームにもわからないという。

ドッドは声明でこう述べている。

「AACSのメモリにある全情報を読み出して、すべての動作を検証するつもりだ。これは、テレメトリーの不具合を引き起こした根本原因を突き止めるのに役立つだろう。ということで、用心しつつも楽観視しているが、今後もさらなる調査が必要だ」

不具合を乗り越えて、ボイジャー1号の旅は続く

ボイジャー1号と2号に関しては、ここ数年来、電力の節約に向けた取り組みが行われており、両探査機に搭載されているシステムの中で、一部の観測装置のヒーターなど、優先度の低いものの電源を段階的に落としている。これにより、2機の計器を2030年まで稼働させたいと、エンジニアチームは考えている。

ボイジャー1号が1980年11月16日、土星最接近後に撮影した写真。土星の輪が、これまでになかった視点から捉えられている。

ボイジャー1号が1980年11月16日、土星最接近後に撮影した写真。土星の輪が、これまでになかった視点から捉えられている。

NASA/JPL

ボイジャーのミッションは、それまで知られていなかった衛星や輪の発見から、史上初のヘリオポーズが存在する直接的な証拠の収集まで、科学者の宇宙に対する理解を広げる役割を果たしてきた。「できるだけ長くこのミッションを続けていきたい。この科学データは本当に貴重なものだからだ」とドッドは述べている。

「両方の探査機がいまだに稼働を続け、しかも良好な稼働状況を保っているのは、本当に驚くべきことだ。多少の不具合はあるが、非常に良好な状態で、今もこのように貴重なデータを送信している」とドッドは語り、さらにこう付け加えた。

「2台の探査機は、いまだに私たちに話しかけてくれている」

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