小惑星リュウグウの粒子の表面に、太陽風の照射で壊された組織や微小隕石の衝突で融けた痕跡が見つかり、C型小惑星の宇宙風化の様子が初めて明らかになった。
【2022年12月23日 JAXA】
「はやぶさ2」が2年前に持ち帰った小惑星リュウグウの試料を分析している同プロジェクトの「初期分析」6チームのうち、京都大学の野口高明さんを中心とする「砂の物質分析チーム」の研究成果が新たに発表された。
大気を持たない太陽系天体には、太陽風がつねに吹き付けており、太陽系外からやって来る銀河宇宙線なども照射されている。さらに、直径2mm以下の塵が微小隕石(マイクロメテオロイド)となって秒速10km以上の速度で衝突している。これらの現象によって天体の表面が変化する現象を「宇宙風化」と呼んでいる。
これまでに、月の岩石と「はやぶさ」初号機が持ち帰った小惑星イトカワの粒子を分析することで、月やS型小惑星で宇宙風化がどう進むかは研究されてきた。しかし、リュウグウなどのC型小惑星に及ぼす宇宙風化の影響はよくわかっていなかった。
今回、「はやぶさ2」プロジェクトの「砂の物質分析チーム」は、リュウグウ試料のうち直径が50~70μmほどの微粒子試料0.7mg分(約900粒)に対して、電子顕微鏡で微粒子の表面を分析した。
観察の結果、リュウグウ粒子には2種類の表面が見つかった。一つは粒子の主成分である層状ケイ酸塩(粘土鉱物)の組織が深さ0.1μmくらいまで壊れて、凹凸がやや滑らかな状態に変わっているものだ。宇宙風化を受けていない微粒子にヘリウムイオンを照射する実験でこれとよく似た表面ができたことから、このタイプの表面は太陽風の照射でできたと研究チームでは考えている。
もう一つは、数μmの深さまで表面が高温で融けて「もんじゃ焼き」のように泡立っているものだ。こちらはCMコンドライトという炭素質隕石にレーザー光をパルス的に照射するとよく似た層ができたことから、このタイプの表面は微小隕石が衝突して瞬間的に高温になって融けたもので、泡立っているのは粘土鉱物の水が蒸発して逃げた跡と考えられるという。
過去の研究で、月面の微粒子(レゴリス)はほとんどが融けているが、イトカワ粒子では融けているものはほとんどないことがわかっている。この違いは、重力の大きい月の方が微小隕石の衝突速度が速いためだと考えられる。だが、イトカワと同じように重力が弱いはずのリュウグウで、融けている粒子がこれほど多いのは予想外の結果だ。研究チームでは、C型小惑星の物質は「すき間」が非常に多くて断熱性がよいために、微小隕石の衝突で粒子同士がこすれ合っただけでもすぐ高温になって融けるのでは、と考えている。
今回の結果は、リュウグウをめぐる観測と試料分析の「矛盾」を解消するものでもある。「はやぶさ2」のリモートセンシング観測では、リュウグウの表面では水がほとんど検出されなかった。そのため、かつてリュウグウは太陽に近づくなどして強く加熱された可能性が推定されてきた。しかし試料の初期分析では、リュウグウはせいぜい数十℃までしか加熱されていないという結果が出ている。
今回の分析で、リュウグウ粒子のごく浅い層だけが微小隕石の衝突で脱水していることがわかり、水が失われているように見えたのはリュウグウ全体が加熱されたためではなく、宇宙風化の影響である可能性が高いことになった。
今回、C型小惑星の宇宙風化の実態が初めてわかったことで、小惑星の反射スペクトルについても宇宙風化の効果を考慮する必要があるかもしれないと研究チームでは考えている。
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