JWSTが撮影した暗黒星雲
米航空宇宙局(NASA)と欧州宇宙機関(ESA)のジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST、図)の近赤外線カメラが、「おうし座」の方向約460光年先にある暗黒星雲「L1527」を撮影しました(写真1)。暗黒星雲とは、背後にある星などに照らされて浮かび上がったガスやちりの集まりです。主に赤外線で捉えた画像なので、私たち人間の目では見えません。撮影する時に使った4種類のフィルター(青・緑・赤・オレンジ)に応じて着色・合成してあります。青・緑・ピンク・オレンジに彩られた二つの扇形が、まるで「夜空の砂時計」のような配置で浮かび上がっていて見事ですね。
砂時計のくびれ部分には、誕生してから約10万年しかたっていない赤ちゃんの星(原始星)があります。この星の質量は太陽の20~40%くらいと推定されており、星の輝きを生み出す水素の核融合反応が始まる少し前の状態だと考えられています。
どうしてこんな砂時計の形ができるのでしょうか。赤ちゃん星の周りには、ぐるぐる回転するガスやちりによって「原始惑星系円盤」と呼ばれる円盤ができているので、その円盤の面の方向へは、赤ちゃん星から出た光が通り抜けることができません。円盤が取り囲んでいない(上下の)方向には邪魔をする物質があまりないので、赤ちゃん星から吐き出された物質によって空洞が生まれ、光が漏れ出ていくことができるようです。この空洞にある薄いガスやちりを、赤ちゃん星から放たれた光が照らし出すことによって、美しい砂時計が夜空に出現しています。
なお、この暗黒星雲を10年前に電波干渉計などで捉えた画像もあります(写真2)。この画像は当時、恒星の誕生直前の様子を初めて捉えた画期的な成果と称賛されましたが、写真1の方が砂時計の「砂」に相当するガスやちりの流れなどがくっきりしていて、JWSTの性能のすごさがよく分かりますね。
私たちは、この暗黒星雲の原始惑星系円盤をちょうど横方向から見ているので、写真1の砂時計のくびれ部分にある円盤が暗い線として見えています。この円盤は、私たちの太陽系と同じくらいの大きさだそうです。もし今から約46億年前に誕生する直前の太陽系を横から見ていた人がいたら、太陽系もこんなすてきな姿に見えていたに違いありません。できることなら、その頃にワープして見てみたい気がしますね。
的川泰宣さん
長らく日本の宇宙開発の最前線で活躍してきた「宇宙博士」。現在は宇宙航空研究開発機構(JAXA)の名誉教授。1942年生まれ。
日本宇宙少年団(YAC)
年齢・性別問わず、宇宙に興味があればだれでも団員になれます。 http://www.yac-j.or.jp
「的川博士の銀河教室」は、宇宙開発の歴史や宇宙に関する最新ニュースについて、的川泰宣さんが解説するコーナー。毎日小学生新聞で2008年10月から連載開始。カットのイラストは漫画家の松本零士さん。
Adblock test (Why?)
からの記事と詳細 ( 的川博士の銀河教室:的川博士の銀河教室 724 宇宙に輝く「砂時計」 - 毎日新聞 )
https://ift.tt/w8jcVPs
科学&テクノロジー
No comments:
Post a Comment