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Thursday, October 13, 2022

バランス/アンバラも1本で。超ナチュラルqdc「TIGER」と迫力の「Dmagic Solo」 - AV Watch

左から「TIGER」、「Dmagic Solo」

何度か書いているが、「オススメのイヤフォンある?」と聞かれた時に、qdcのイヤフォンを挙げる事が多い。個人的に「Neptune」というイヤフォンのファンだというのもあるが、それ以外のモデルも、音質とデザイン、そして価格のバランスに優れていて、「良く出来てるなぁ」と感じる事が多いからだ。

Neptune

そんなqdcから、気になる2つのユニバーサル・イヤフォンが登場した。1つは、qdc初となるフルレンジ・ダイナミックドライバー×1基だけを採用し、シンプルかつ価格を29,980円に抑えた「Dmagic Solo」。そして、最上位「Anole V14」の技術を豊富に投入したハイクラスモデル「TIGER」(269,980円)だ。

Dmagic Solo

Dmagic Solo

まずは概要をおさらいしよう。と、言ってもDmagic Soloは非常にシンプルだ。

搭載しているのは8mmのフルレンジ・ダイナミックドライバー1基のみ。高感度なユニットで、qdcならではのチューニングにより、「パワフル且つ繊細なディテールを表現できる」という。再生周波数帯域は10Hz~30kHz。入力感度は98dB SPL/mW、インピーダンスは18Ωだ。

半透明の筐体を見ると、確かにダイナミックドライバーが搭載されているのが見える。なお、ライトブルーの筐体は3Dプリントで作られており、フェイスプレートはディーブブルークラック塗装。こちらも少し透けているため、見る角度によって深い海を思わせる色味が変化する。私の好きなNeptuneとも似たデザインで、非常に美しい。

フェイスプレートには、ゴールドで模様やqdcのロゴも入っており、見ていると「天空の城ラピュタ」に出てくる飛行石を連想する。結晶のような気品のある外観で、高級感がある。

Dmagic Solo。右にだけライトを当ててみたが、「天空の城ラピュタ」に出てくる飛行石のような美しさだ

音響的なミソとしては、筐体内の音響キャビティが1つではなく、2つの空間が作られている事。1つは、ドライバーと振動板があるアクティブキャビティ、そしてもう1つは振動板のみのパッシブキャビティだ。

内部
光に透かしたところ。内部の構造がわかる

2つのキャビティは繋がっており、アクティブキャビティのドライバーが音を発すると、ドライバー前方の音は導管を通ってノズルへ伝わり、ドライバー後方の音はパッシブキャビティを通ってダイアフラムで強化され、別の導管を通ってノズルに伝わる。この2つが組み合わさって、耳へと届いている。イメージとしては、バックロードホーンスピーカーに似ているだろうか。

「Turbo mirror virtual supercharged acoustics」と名付けられたこの機構により、サウンドディテールが強化され、低域を補いサウンドステージのスケールも拡大。「ダイナミックドライバーの潜在能力をより引き出す」という。

様々なDAPやポタアンに接続できるケーブル

Dmagic SoloとTIGERに共通する特徴として、標準ケーブルの入力プラグが交換式になっており、3.5mm 3極アンバランス、2.5mm 4極バランス、4.4mm 5極バランスのプラグが最初から同梱されている。そのため、様々なDAPやポータブルアンプ、スマホなどと接続できる。

Dmagic Soloの端子部。抜き差しするだけで簡単にプラグを交換できる

一昔前は、付属ケーブルとは異なるプラグのケーブルを追加で買わなければいけなかったが、最近のイヤフォンは便利になったものだ。

TIGERの端子部。こちらは固定用のボタンを備えている

プラグの着脱も簡単。Dmagic Soloは、単に単にプラグ部分だけを引き抜いて、違うプラグをグッと押し込むだけ。TIGERも同様だが、こちらには固定用のボタンも備えている。いずれも工具などが不要なので、外出先でも容易に交換できる。固定ボタンの無いDmagic Soloも、かなり力を入れないと外れないので、「意図せずプラグが抜けてしまった」なんてこともないだろう。

付属のイヤーピースは、シリコンタイプがS/M/Lの3ペア。ダブルフランジタイプもS/M/Lの3ペア付属する。クリーニングツールやキャリングケースも同梱される。

音を聴いてみる:Dmagic Solo

Dmagic Soloを聴いてみる

価格帯としてはちょっとアンバランスだが、Dmagic Soloの実力を知るために、DAPはAstell&Kernの「A&ultima SP2000T」を使用した。接続は4.4mmのバランスで行なっている。

「藤田恵美/camomile Best Audio」の「Best OF My Love」(ハイレゾ)を再生する。冒頭のアコースティックギターを聴くと、硬質でシャープな弦の音と、ギターの筐体で増幅される柔らかな音、そして女性ボーカルの温かみのある音……と、質感の違う音がキッチリ描きわけられている。こうしたナチュラルな音は、ダイナミックドライバーならではだ。

高感度なユニットらしく、描写も細かく、ギターの弦の震え方や、ボーカルの口の動き方もシャープに聴き取れる。うっとりと、そのまま聴き続けていると、1分を過ぎにアコースティックベースが入ってくる。その瞬間、「グォオオーン!」という、重く沈み、パワフルに押し寄せてくる低音に「おわっ!!」と驚く。

「8mmのダイナミックドライバー、1基だよね?」と、思わずスペックシートを確認してしまう。とても8mm径とは思えない、スゴイ低音だ。これは間違いなく、ドライバー後方の音を強化しつつ、別の導管を通ってノズルに届けるTurbo mirror virtual supercharged acoustics機構の効果だろう。

今まで色々なイヤフォンを聴いてきた人は「8mm径のダイナミックは、だいたいこのくらいの低音」というのがイメージできると思うが、そんな“イヤフォンを詳しい人”ほど、この低音には驚くだろう。

市場には、もっと大型のダイナミック型ユニットを搭載したイヤフォンも存在するが、それらに負けない低音を、この8mmドライバーで実現しているのは見事だ。それにより、ハウジングも小ぶりに仕上がっており、装着した時の耳への収まりも良い。独自機構と共に、カスタムIEMで培ったqdcらしい“耳にフィットする形状”のノウハウが感じられる。

「イーグルス/ホテル・カリフォルニア」を聴いても、冒頭のベースが「ズゴーン!」と深く沈み、頭蓋骨に響くような迫力がある。スゴイのは、それだけパワフルな低音が出ていながら、その上に重なるギターや、ドン・ヘンリーの高い声が、低音に埋もれず、キッチリとクリアに聴き取れる事。

こうしたチューニングの上手さは、シングルBAで高い完成度の音を実現した「Neptune」を手掛けるqdcならでは、と感じる。「宇多田ヒカル/One Last Kiss」を聴いても、ベースラインはゴリゴリと、深く沈み、迫力満点でありながら、宇多田の歌声の、かすれる一歩手前のような細かな表情まで繊細に聴かせてくれる。ベースの低音が不必要に膨らまず、適度なタイトさを備えているからこそという、聴いていて気持ちの良い音だ。

AK HC2

DAPがSP2000Tだと、ちょっと価格バランスが悪いので、スマホに接続できるケーブルタイプのUSB DACアンプ「AK HC2」(直販29,980円)でも聴いてみよう。ただ、このHC2、低価格ではあるが並のDAPが裸足で逃げ出すようなサウンドであり、4.4mmのバランス出力や高出力も可能なDACアンプになっている。

Dmagic Solo×AK HC2の音も良い。Dmagic Soloの迫力があり、しっかり沈む低音という持ち味が、HC2でドライブしても発揮されている。Cirrus Logicの「Master HIFI DAC CS43198」をデュアルで搭載しているが、それによるアコースティックベースの音圧がしっかり表現されている。耳で聴いているだけなのに、肺を圧迫されているような錯覚を覚えるサウンドだ。

流石に、厳密にSP2000Tと比べると、SN比に違いがあったり、サウンドステージがSP2000Tの方が一回り広いなど、聴こえ方は異なる。だが、約35万円のDAPと、約3万円のUSB DACアンプという価格差を考えると、HC2のコスパの良さに改めて驚かされる。

Dmagic Soloの価格が29,980円なので、AK HC2と一緒に買っても6万円程度に収まるのは、非常に魅力的だ。

音を聴いてみる:TIGER

TIGER

では、同じく4.4mm バランス接続でTIGERを聴いてみよう。

Dmagic Soloは29,980円、TIGERは269,980円と、価格は10倍くらい違う。前述のように、Dmagic Soloが非常に良く出来たイヤフォンなので「TIGERは、ほんとに値段に見合う音なの? Dmagic Soloで十分じゃないの?」的なノリで耳に入れたのだが、音が出た瞬間「ああー! やっぱ……やっぱ違うわ」となる。

価格は別として、Dmagic Soloは“ダイナミック型ユニットの良さ”を目一杯引き出したイヤフォン。一方のTIGERは“BAユニットの良さを引き出しつつ、ESTでさらに魅力を高めた”音だ。

BAの良さは、なんと言っても高解像度である事。TIGERの音は、まるで自分の耳が2段階くらいレベルアップしたように、あらゆる細かな音が聴き取れる。「藤田恵美/Best OF My Love」では、「ギターの音が細かいな」を超えて、弦がブルブル震える様子が脳裏に浮かぶ。「ヴォーカルの口の開閉がリアルだな」を通り越して、「口の中の歯が見えそう」みたいなリアルさがあり、ドキッとする。

例えば、最近話題のVaundyの新曲「mabataki」。彼のボーカルは物憂げで、どこか艶めかしく、非常に表現力が豊かだが、その微妙な感情の揺れが、超高解像度で描写されるので「うわーこの人めっちゃ歌が上手い」と、その魅力を再確認してしまう。ついでに、「mabataki」では冒頭からストリングスが「ダッダッダッ」とビートを刻むように繰り返されるのだが、そのストリングスが細かな音が集まりつつ、鋭く切り込んでいるのがわかるほど描写が細かい。これらの膨大な情報量が耳から一気になだれ込んでくるので圧倒される。

SN比も良く、音場も広大。その広い空間に、細かな音を大量に、なおかつシャープに描いてくれるため、クラシックや映画のサントラなどが最高に気持ち良い。例えば 「機動戦士ガンダムUC」サントラから、オーケストラによる「MOBILE SUIT」を再生すると、無数の楽器の音が微細に描写され、その音がブワッと広がる空間そのものが脳に押し寄せてくる感覚になり、聴いている最中「おおおおおお!!」みたいな、言葉にならない声しか出せなくなる。

スピーカー再生で、こんなに細かな音を無数に浴びる事は難しい。まさにハイエンドなポータブルオーディオならではの悦楽。仕事に疲れた金曜の夜に、暗くした部屋でこの音を聴くと、脳がリフレッシュする。

おそらくだが、BAユニットだけでは、ここまで繊細な描写にはならないのだろう。しかし、聴いていて「BAの音とESTの音がドッキングしているな」と感じる事はない。異なる方式のユニットを組み合わせても、音色は統一されているので、違和感を感じない。ESTは、あくまでBAの良さを引き出す役割に徹している感があり、このあたりのチューニングの上手さも、qdcらしいポイントだ。

前述のAK HC2でも聴いてみたが、これもかなり良い。TIGERは高解像度なサウンドなので、AK HC2の情報量豊かなサウンドの“凄さ”が、TIGERで余すところなく再生される。スマホのイヤフォン出力などでは、低域のパワーや解像度が低く、大味な音になる場面でも、AK HC2×TIGERでは分解能が高く、タイトでハイスピードな低音が心地よく聴ける。

AK HC2とSP2000Tの音を聴き比べると、やはり空間の広さや、低域のさらなる解像度の高さなどでSP2000Tの方が優れている。女性ボーカルの声のリアルさ、弦楽器の響きのしなやかさなど、細かな感情の表現もSP2000Tの方が上なのだが、そうした微細な違いをTIGERはクッキリと描き分けてみせる。イヤフォンとして高次元な表現力を備えている証拠と言えるだろう。

まとめ

価格帯が違い過ぎるので「Dmagic Solo」か「TIGER」のどっちがいいか? という話はあまり意味がないだろう。さらに言えば、方式も、追求している音の方向性もまったく違うので、「どっちか片方が」ではなく「両方欲しい。買えるなら」というのが正直な感想だ。

TIGERが見せてくれるのは、“超ハイファイ”なハイエンド・ポータブルオーディオの世界。Dmagic Soloは、ダイナミック型らしい自然な音色と、迫力の低音による“美味しさタップリのオーディオ世界”という印象だ。

ハイレゾ音源の情報量を余すところなく楽しみたい、ポータブルならではのサウンドを極めたいという人はTIGERを、それよりも手軽に、でも気持ちよく音楽を楽しみたい、そしてNetflixの映画やゲームなども迫力満点に楽しみたい……という人にはDmagic Soloがオススメ。特にAK HC2×Dmagic Soloの組み合わせは、音と価格のコスパが非常に優秀なので、オススメな組み合わせだ。

最後に余談だが、Dmagic SoloとTIGERといったqdcの有線イヤフォンをワイヤレス化するアダプタとして「TWX」という製品も、今後発売予定だそう。ハイクオリティなサウンドを、ワイヤレスで便利に楽しみたいという人にはこちらも要注目だ。

今後発売予定のTWX。イヤフォンを取り付けた状態でも充電ケースに収納できる

(協力:アユート)

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