継続時間の短い「ショートガンマ線バースト」の残光がミリ波で初めて観測された。このタイプの現象としてはこれまでで最も高エネルギーのバーストだったとみられる。
【2022年8月10日 ノースウェスタン大学】
ガンマ線バースト(GRB)は空のある位置で突発的に強いガンマ線が観測される現象だ。宇宙で最もエネルギーの大きな現象の一つで、太陽が一生の間に放出する以上のエネルギーがわずか数秒で放射される。
特に、バーストの継続時間が短い「ショートガンマ線バースト」(以下、ショートGRB)は、中性子星やブラックホールの合体で発生すると考えられている。こうした天体同士の近接連星は、重力波を放出しながら徐々に軌道が縮んで最終的に合体する。この合体で爆発が起こり、光速に近いジェットが発生する。このジェットがたまたま地球の方向を向いていると、ショートGRBとして観測されるのだ。
ショートGRBは1秒以下しか続かないが、バースト後に「残光」が、様々な波長の電磁波で数日にわたって見られることがある。この残光は、ジェットが周囲のガスとぶつかって生じるものだ。そのため、ショートGRBが検出されると、ただちに世界中の望遠鏡や宇宙望遠鏡で残光探しが行われる。
だが、残光を見つけるのは容易ではなく、特に電波の残光を検出するのは難しい。これまでに電波で残光が検出されたショートGRBは6個しかなく、ミリ波での残光は全く検出例がなかった。
「ショートGRBの残光は非常に明るくエネルギーの高い現象ですが、遠方の銀河で起こるため、地球からは非常に暗くしか見えません。アルマ望遠鏡以前のミリ波望遠鏡では感度が足りず、残光を検出できませんでした」(米・ユタ大学 Tanmoy Laskarさん)。
2021年11月6日にNASAのガンマ線観測衛星「ニール・ゲーレルス・スウィフト」がつる座の方向で検出したショートGRB「GRB 211106A」でも、X線の残光は観測されたが発生元となった母銀河は検出されず、バースト位置を正確に特定できなかった。また、ハッブル宇宙望遠鏡(HST)の当初の観測でも可視光線の残光は見えなかった。
そこでLaskarさんたちは、バーストのおおよその発生位置をアルマ望遠鏡で観測した。その結果、ミリ波での残光をとらえることに初めて成功した。これによってバーストの発生位置を正確に決めることができ、改めてHSTで観測を行ったところ、その位置に暗い銀河を見つけた。この銀河は宇宙年齢が現在の40%ほどの時代にあたる約80億光年の距離にあることも判明した。
Laskerさんたちはミリ波と電波の観測から、GRB 211106Aで発生したジェットの細さ(開口角)を求めることにも成功した。この情報を使えば、宇宙におけるショートGRBの発生率を推定し、中性子星同士、または中性子星+ブラックホールの連星が合体する確率と比べることもできる。さらに、ミリ波の観測データからGRBの周囲の物質密度を知ったり、X線のデータと組み合わせて爆発の真のエネルギーを見積もったりすることも可能だ。
「今回のショートGRBは、この種の現象としてはアルマ望遠鏡で初めて観測を試みたものです。ショートGRBの残光をとらえるのは非常に難しいので、これほど明るい残光がとらえられたのは圧巻でした。長年にわたりショートGRBを観測してきた私たちにとって、この驚くべき発見は新しい研究分野を切り拓くものであり、今後アルマ望遠鏡や他の望遠鏡アレイでさらに多くのバーストを観測する追い風となるでしょう」(米・ノースウェスタン大学 Wen-fai Fongさん)。
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