石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非加盟の主要産油国でつくる「OPECプラス」は2日、原油を追加増産することで合意した。7月と8月の増産幅をそれぞれ日量64万8千バレルとし、従来の43万2千バレルから拡大する。ロシアのウクライナ侵攻による原油高で世界的なインフレ懸念が強まるなか、一段の増産を迫る米国の要請に応じた。
増産余力を持つサウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)は対ロ協調を優先し、大幅増産に応じてこなかった。今回OPECを主導するサウジが重い腰を上げた背景に、インフレに悩む米国からの強い圧力があったようだ。ジャンピエール米大統領報道官はOPECプラスの閣僚協議後、「新たな市場環境に基づき、供給を日量20万バレル以上増やすとの重要な決定を歓迎する」と表明した。
米メディアによると、6月下旬にバイデン米大統領が中東を歴訪する計画があり、これに先立ちホワイトハウス高官らが最近サウジを訪れていた。米国では中間選挙が11月に控えている。低い支持率に悩む米バイデン政権にとって、これ以上のガソリン高は避け�たい。
サウジが米国に歩み寄りの姿勢をみせたのは、サウジを取り巻く安全保障上の問題がある。サウジはイエメンの親イラン勢力との戦いで米国の支援が弱いと感じ、米国がイラン核合意の再建を目指していることも警戒する。これらの問題で米国から見返りがあれば、一定の原油増産で応えるとの見方がある。
もっとも、ウクライナ侵攻による制裁で落ち込んだロシアの生産減を補うには十分とはいえない。国際エネルギー機関(IEA)によると、4月のロシアの生産量は計画に対し日量134万バレルの未達だった。欧州連合(EU)が5月末に合意したロシア産石油の禁輸など米欧日の制裁が続く限り、回復は見込みにくい。アフリカの産油国なども生産目標割れが続いている。
原油市場の反応は限られている。ニューヨーク市場のWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)原油先物はOPECプラスの声明発表後、一時1バレル116ドル台と前日比1%上昇した。追加増産の観測で3%安い111ドル台まで下落していたが、規模が限られるとの見方から買い戻された。
OPECはロシアとの関係も維持する構えだ。OPECの産油量のシェアは世界の3割台だが、ロシアを加えれば4割を超す。原油市場への影響力を維持するためにも「ロシアとの協調は簡単にはやめられない」(和光大学の岩間剛一教授)との見方が強い。
ロシアのノワク副首相は2日の協議後、OPECプラスの枠組みで引き続き協力する意向を示した。地元テレビに「不断の協議を続けることが重要だ」と述べたとタス通�信が伝えた。
OPECプラスは声明で「9月の生産調整を前倒しし7、8月に配分し直す」とした。7~9月の3カ月間にわたり毎月43万2千バレルずつの予定だった増産を、7、8月の約65万バレルずつに置き換えることになる。米国には増産を急ぐ姿勢をみせつつ、実質は変わらないとロシアに説明できる。次回協議は6月30日に開く。
ウクライナ危機の長期化は中東勢にも誤算だったはずだ。長びくほど、中東産油国はロシアから得るものが小さくなり、米国などからの風当たりは強まる。供給不足を放置すれば、国際的なカルテルとしての信用を損なう懸念もあった。
原油価格の急落を招くような大幅な増産は、どの産油国も望まないのが本音だ。増産幅が大きいと米欧の対ロ制裁を側面支援する形になり、ロシアを追い詰めるリスクもある。中東産油国が米ロを両てんびんにかける構造はなお続いている。
(カイロ=久門武史、蛭田和也)
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