ある素粒子のふるまいが、素粒子物理学の「標準モデル(標準理論)」に反していることを示す新たな証拠が見つかった。科学における最も堅固な理論の1つである標準モデルによる予測との食い違いは、未知の粒子や力が宇宙に存在している可能性を示唆している。
米フェルミ国立加速器研究所の研究者たちは4月7日のセミナーで、2018年に始まった「ミューオンg-2実験」の最初の結果を発表した。この実験ではミューオン(ミュー粒子)という素粒子を測定している。ミューオンは1930年代に発見された電子の仲間の素粒子で、電子よりも重い。
ミューオンは電子と同様に負の電荷を持ち、スピンと呼ばれる量子的な性質を持っているため、磁場の中に置かれると、小さなコマのように歳差運動(首振り運動)をする。磁場が強くなるほど、ミューオンの歳差運動は速くなる。
一方、1970年代に考案された標準モデルは、宇宙のすべての粒子のふるまいを数学的に説明する人類最高の理論であり、ミューオンの歳差運動の周期も高い精度で予測することができる。しかし2001年、米ブルックヘブン国立研究所は、ミューオンの歳差運動が標準モデルの予測よりもわずかに速いように見えることを発見した。
それから20年後の今、フェルミ研究所のミューオンg-2実験が同様の実験を行い、同じような標準モデルとのずれを確認した。2つの実験のデータを合わせてみると、この不一致が単なる偶然によって生じた確率はおよそ4万分の1であることがわかった。つまり、別の粒子や力がミューオンの挙動に影響を及ぼしたことを示唆している。
「待ちに待った成果です」と英マンチェスター大学の物理学者マーク・ランカスター氏は喜ぶ。氏は7カ国から200人以上の科学者が参加するミューオンg-2実験チームのメンバーだ。「私たちの多くは、この研究に何十年も取り組んでいるのです」
とはいえ、素粒子物理学の厳格な基準に照らし合わせると、今回の結果はまだ「発見」とは言えない。この基準に達するには、5σ(シグマ)の統計的確実性を達成する必要がある。つまり、理論と観測との食い違いが、真の違いではなく偶然そうなった確率が350万分の1以下にならなければならないのだ。
実験結果の一部はまず4月7日付けで学術誌「Physical Review Letters」に発表され、さらに「Physical Review Accelerators & Beams」「Physical Review A」「Physical Review D」にも掲載される予定だが、実験で収集される予定の全データのわずか6%に基づいているにすぎない。結果に一貫性があれば、2年ほどで5σに到達するだろう。
今回の結果はすでに、標準モデルを超えた素粒子や物理的性質の存在を示唆する、過去数十年間で最大の手がかりになっている。今回見つかった標準モデルとの不一致が今後も否定されなければ、この研究は「間違いなくノーベル賞に値します」とベルギー、ブリュッセル自由大学の物理学者フレイア・ブレックマン氏は言う。氏はこの研究には参加していない。
標準モデルとミューオン
宇宙の基本的な粒子のふるまいを驚異的な精度で予測できる標準モデルは、最も成功した科学理論と言っても過言ではない。しかし、このモデルが不完全であることは以前から知られていた。例えば、重力についての説明がないし、宇宙のあちこちに存在すると考えられている謎めいた暗黒物質(ダークマター)についても何も語っていない。
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