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Saturday, December 5, 2020

駅ナカ「幻の卵屋さん」が人気の訳 ちょっとしたイベント感覚 - livedoor

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10月12〜18日の期間、品川駅ナカ施設「品川エキュート」に出店した「幻の卵屋さん」。毎日、農家から産みたての卵を直送。ここでは日替わりで10〜15種類を販売したが、催事スペースによっては品ぞろえがさらに多いことも。12月14日まで東京駅構内、新幹線南乗り換え口エキュート前で、12月17〜28日は吉祥寺駅中央改札前で出店(編集部撮影)

コロナによる価値観の変化は、さまざまな新しいサービスを誕生させた。今回ご紹介するものもその1つだ。

全国各地の養鶏場から直接仕入れた卵を、1個から販売するユニークな方法で話題となっているのが「幻の卵屋さん」。今、都内近郊大手百貨店や駅ナカ施設で、毎月のように催事を展開している。日に100万円を売り上げることもあるという。

扱う卵の種類は全部で70種類以上。みな、それぞれが特徴を持った希少なブランド卵だ。

淡い桜色をしているものや、青っぽいものなど、文字どおり色とりどりの卵が並ぶさまは見ていて楽しくなってくるほど。

しかし、同店が注目されている理由は商品の珍しさだけではない。何が魅力となっているのか。10月中旬に展開されていた品川駅ナカ施設の催事を訪ねてみた。

自分好みに「ブランド卵」を詰め合わせ

黄色のノボリが目立つ販売スペースには、小さなカゴに盛られた卵が陳列されている。そこに集まる人を見ると、左手に卵パック、右手にボールペンを持ち、真剣な顔で卵を見つめながら、小さな紙に何か書き込んでいる。

これが同店の大きな特色となっている、卵の詰め合わせだ。お客は陳列棚に並ぶ各種の卵の中から、自分の好きなブランド卵を6個選んで卵パックに入れ、レジで精算する。紙に何か記入していたのは、後で食べるときに違いがわかるよう、ブランド名と賞味期限を記録していたのだ。


好きなものを6個選び、パックに詰め合わせる。1パック800円(筆者撮影)

6個800円とスーパーなどで売られている普通の卵よりはかなりお高いながら、実際に商品を見て、好きなものを組み合わせて購入できるスタイルが楽しいと、評判になっている。ドリンクやスイーツのチェーンなどではベースの飲料やトッピングを組み合わせてカスタマイズするスタイルが流行ったが、同店はいわばその卵版。自分オリジナルの6個入り卵パックをつくることができるわけだ。

しかし、卵と言えば、スーパーで大量に積まれた中から、あまり選ぶ余地もなく購入することが多いもの。卵ならではの流通の仕組みがあり、生産者と消費者の距離が遠いイメージだ。突然、このような販売方法の店が出てきたのはなぜだろうか。

「幻の卵屋さん」を運営する一般社団法人日本たまごかけごはん研究所代表理事の上野貴史氏に話を聞いた。

「始めたきっかけはコロナの影響です。私たちの研究所とおつきあいのある養鶏場は多くが地方の、飼育数1万羽以下の中小の農家。緊急事態宣言で売れ行きが悪化し、卵が余ってしまったわけです。そこで生産者への支援策として、シェアオフィスのラウンジで一般消費者向けに売り始めたのが始まりです」(上野氏)


日本たまごかけごはん研究所 代表理事の上野貴史氏。イタリアン、フレンチのシェフで富裕層向けケータリング事業やレシピ開発などを本業とする。作り手の技術や知識で表情を変える、卵という素材に惚れ込んで、同研究所を設立するに至った(編集部撮影)

出店したのは、2020年4月、外出が制限され、買い物さえも自粛ムードが漂っていた時期。口コミで集まったお客からは「買い物が楽しい」「1個単位で選べるのがいい」という声が挙がった。普段なら、卵を1個1個選ぶことなど考えられない。しかも、いつもよりちょっと高級なものを買っている、というハレノヒ感もある。買い物欲を満たすと同時に、ちょっとしたイベント感覚で楽しんでいたお客が多かったそうだ。

「農家の支援策に」と始めたショップの反響が予想外に大きかったことに、上野氏はビジネスの可能性を見いだすことになる。

ただし、利益の面では儲けになるどころか、赤字続きだった。流通ルートには参入できないので、農家から直接、産みたての新鮮な卵を10kg購入し、宅配で送ってもらう。当然送料もかかる。6個で800円という値段設定は、原価が50%以上の赤字覚悟の価格なのだそうだ。

そこまでして卵を売ったのはなぜか。

理由は、上野氏が理事を務める、日本たまごかけごはん研究所の活動と深い関係がある。

「たまごかけごはん」の世界的な普及を目指して

同研究所の設立は2019年4月。目的は、「TKG」という略称でも親しまれている、たまごかけごはんという日本固有の食文化を広め、世界に発信していくことだ。併せて生産者の応援や地域創生につなげ、食によって日本をよくするという大きな目標もある。

「卵の生食は日本独自の食べ方。外国人がしないのは習慣の違いもありますが、衛生管理面の理由も大きいのです。生食ができる状態を保てるのは冷蔵や保管技術のレベルが高いからです。たまごかけごはんという食べ方が普及しているからこそ、こうした環境が整えられてきたのです」(上野氏)


11月5日に開催された「第15回日本たまごかけごはん研究会」。参加費は115円で、たまごかけごはんを食べ比べてアンケートに答える。たまごかけごはんもトッピング(この日はトリュフもあった)も食べ放題(編集部撮影)

具体的な活動は、たまごかけごはんを極める研究会や、イベントなどの開催。研究会立ち上げ時に「3年以内に東京ドームで、5年以内に海外でイベントを開催する」ことをビジョンとして掲げたそうだ。

全国各地の養鶏場とパイプがあるのも、研究会の活動を通して。研究会では、一般の消費者から参加を募り、農家から直接取り寄せた卵を食べてもらってアンケートをとる。結果は店舗で販売する卵を決めたり、「たまごかけごはん専用しょうゆ」や「ごはんのお供」といった周辺アイテムの企画開発に生かす。農家にもフィードバックし、よりよい卵づくりに役立ててもらうそうだ。

つまり、「幻の卵屋さん」事業も、たまごかけごはんという食文化を広めるための活動の一環。ちょうどオリンピックに合わせてアンテナショップを出す計画が進んでいたところ、コロナで頓挫した。赤字覚悟で行ってきたのもそのためだ。

実際、各地で催事イベントを開催するようになってからもしばらくは赤字が続いたそうだ。

上野氏はもともとシェフ、ほか3人の理事も全員経営者で、ITやデザイン、内装関係など、研究所の活動に役立つ本業を営んでいたため、赤字でも楽しみながら続けてこられた。イベントの宣伝やグッズに使われている「16種のたまごかけごはん」イラストも、理事の1人の手によるもの。

なお、卵の賞味期限は産みたての状態から3週間程度に設定されていることが多いが、これは生食ができる期限。火を入れるのであればプラス1カ月は食べることができる。実は卵は自分で呼吸しており、自浄作用がある。長もちさせるためには、殻が硬い尖ったほうを下にして保管するとよい。黄味が盛り上がっており、白身がうっすら白濁しているほうが新鮮だ。こうした卵に関する正しい知識を広めるのも、研究所の目的の1つだ。

研究会は月に1度開催されており、毎回20人の一般参加者をSNSを通じて募集。先着順だが、人気があるため受け付け開始後すぐに募集人数に達してしまうという。やはり卵とたまごかけごはんが好きな人が多いようだ。

「スーパーの卵に戻れなくなり、“卵難民”になってしまう人もいますね。今はインターネットの通販で買える農家も。研究所の活動で、おいしい卵がもっと広まってくれることを願っています」(上野氏)

卵の甘み、旨味を堪能

「幻の卵屋さん」で買い求めた卵でたまごかけごはんを食べてみた。

まずはオーソドックスに、ごはんの上に卵を割り、しょうゆをかけて混ぜながら食べる。選んだのは「ハコニワファーム茜」。初めて「卵には甘みがある」事実を発見し、新鮮だった。


「ハコニワファーム 茜」をたまごかけごはんに。黄味は鮮やかなあかね色で、混ぜるとケチャップライスのようになる(筆者撮影)

次に、まずしょうゆを少量たらしてまぜ合わせてから、といた卵をかける食べ方に挑戦。選んだのは「夢王」だ。こちらのほうが、卵の味がよりダイレクトに感じられる。上野氏によると、普通のスーパーの卵では臭みが気になって、この食べ方はできないそうだ。

調味料として用いたのは、研究所で開発した公式醤油。薄味かつ少し甘めなので、卵の旨味をかき消さず、引き立ててくれる。

6個の卵を消費するまでに、一つひとつの味わい分けができるほどは極められなかったが、ブランド卵のたまごかけごはんは、スーパーの卵を使ったものとは違うということだけはわかった。また、確かに「ゆずたま」はゆずの風味が感じられる。卵の種類はわかっているだけで1500種類以上あるが、鶏の種類というよりも、育て方や飼料、水による違いだそうだ。

上野氏によると、たまごかけごはんの次におすすめの食べ方は温泉卵。栄養の吸収率がよく、消化によい。妊婦や高齢者にも向くそうだ。自宅ではなかなか作れないが、炊飯器の保温モードで30分置くとよいという。


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「幻の卵屋さん」の直近の出店は、12月14日まで東京駅構内、17〜28日は吉祥寺駅改札前。同研究所の今後を聞くと、「幻の卵屋さん」については2021年からは全国での展開を目指す。再び東京オリンピックに向けて、イートインの店舗も予定しているそうだ。

現在もまた、時短要請、自粛ムードで飲食店には厳しい状況となってきている。いっぽうで、家庭での食事に求める価値や質が変化してきた。ちょっとぜいたくなもの、変わったものを家庭でも食べたいというニーズの高まりが、同研究所にとっては追い風となりそうだ。

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