ZOOMが世界初となる、32bit float対応オーディオインターフェイス「UAC-232」を発売した。発表自体は2022年6月だったのだが、開発・生産に時間がかかっていたようで、2023年2月末にようやく発売となった。
初期ロットは即完売。その後1カ月ほどたち、ようやく広く流通してきた。世界初の快挙ともいえる機材ではあるが、実売価格24,000円と非常に手ごろなオーディオインターフェイスとなっている。実際どんなものなのかをチェックするとともに、音質測定やレイテンシー測定なども行なっていこう。
32bit float対応だから、前面に“入力ゲインツマミ”がない
32bit floatで録音できる“ポータブルレコーダー”はZOOM、そしてTASCAMから既に発売されており、本連載でも何度か取り上げてきた。
今回取り上げるUAC-232は、“単体機として”は業界初となる、32bit float対応のオーディオインターフェイスだ。わざわざ“単体機としては”と書かれている背景には、単体機ではないものは、すでにいくつか登場しているから。
単体機ではない、というのはレコーダーでありながら、PCとUSB接続するとオーディオインターフェイスとしても使える、という意味で、以前紹介したZOOM「F3」「F6」などもPC接続すれば、32bit float対応のオーディオインターフェイスとして使うことができる。
UAC-232は、2in/2outのオーディオインターフェイスで、樹脂製の軽いボディを採用する。縦置きが可能なデザインである点には少し目を引くが、その他は何の変哲もない、普通のオーディオインターフェイスのように見える。
ただ、よくボディを見ると、一般的なオーディオインターフェイスと異なる点がある。それはフロントの入力部の周辺。XLRとTRSの双方の入力に対応したコンボジャックを2つ備えているが、ここに入力ゲインの調整ツマミがないのだ。
このことに戸惑う方は多いかも知れないが、そもそも“32bit float”だから入力ゲイン調整する必要がないのである。
32bit floatがどういうものなのかは、これまで何度か記事にしているので、そちらを参照いただきたいが、すごく手短に説明すれば、「ダイナミックレンジが無限大に近く、とにかく小さな音から爆音まで捉えることができる」というもの。
つまり、入力ゲイン調整しなくても全く問題はなく、必要に応じて録音したデータを目的に合わせた音量に調整すればいいわけだ。
その他のボタン類やコネクタも見ていこう。
まず、Ch.1およびCh.2にコンデンサマイク用の+48Vのファンタム電源がそれぞれ用意されている。Ch.1にはGUITAR/BASSというボタンがあり、これをオンにするとHi-Z(=ハイ・インピダンス)対応の入力になる。
その右側には標準ジャックのヘッドフォン出力があり、こちらは出力レベル調整が用意されている。さらに右には、DIRECT MONITORというボタンがあり、これをオンにすると入力された信号がそのまま出力されるダイレクトモニタリングモードとなる。一番右の大きなノブはメイン出力用のレベル調整になっている。
リアをみると、左側にUSB Type-Cの端子が2つあり、左側は5Vの電源供給用、右側がPCとの接続用だ。
通常は右側のUSB端子からのバスパワー供給で動作するが、iPhoneやiPadに接続して使う場合、電力が足りなくなるため左側の端子から供給する。その右にあるのは、MIDIの入出力。さらに一番右にあるのが、TRSフォンでのメイン出力だ。
このように、入力ゲイン調整がない以外は、いたってシンプルなオーディオインターフェイスになっている。
ADコンバータの後段にGAIN。Music/Streamingモードも
「入力ゲイン調整がホントにないのか?」というと、実は存在している。UAC-232のブロックダイアグラムでは、Dual ADという特殊なADコンバータでデジタル化し、直流成分などをカットした後段に“GAIN”がある。これが入力ゲインだ。
ただ、一般的な入力ゲイン調整はアナログ段で行なわれるのに対し、本機はDual ADでデジタル化されたあとで調整している。ここを調整しても32bit floatであれば音質的に変化することはないし、非常に大きな音でも割れることはない。
ただ、レコーディングするDAW側の入力レベルが変わってくるので、画面上で見やすくなるし、とりあえずそのまま音を出しても適度な音量で鳴らすことができるので便利というわけ。さらにDAW側のフォーマットを24bitや16bitにした場合は、ここでのゲイン設定で入力レベルが決まるので、重要な位置づけとなる。
では、そのゲイン調整はどこで行なうかというと、「ZOOM UAC-232 Mix Control」というソフトを使う。普通のオーディオインターフェイスでは見たことがないちょっとユニークなソフトなので、少し詳しく見ていこう。
静止画だとやや分かりにくいと思うが、中央左側にある大きなモニター画面は入力状況を示しており、約7秒で左から右へと波形を表示。右端に行くと、また左端に戻って表示していく形だ。
モニターの左にあるフェーダーが、先ほどのブロックダイアグラムに出てきたGAIN。つまり、これを大きくすれば波形が大きくなり、小さくすれば波形も小さくなる。
ただ、GAINを大きく上げた結果、波形が潰れるようになったとしても、32bit floatのデータなので、データが破綻してしまうわけではない。DAWでレコーディングした結果の音量を下げていけばキレイに戻るから音割れの心配はないのだ。
画面右側の動作は、Musicモードなのか、Streamingモードなのかによって少し違ってくる。Musicモードは音楽制作で用いるモードであり、INPUT 1に入ってきた音は、DAW側のUSB IN 1に、INPUT 2に入ってきた音はUSB IN 2へと流れていく。これを表したのが下図だ。
先ほどのフロントパネルのDIRECT MONITORがオンになっていると、Direct Monitor Mixでの設定が生きてくる。どのように設定しても、USBを経由してDAWに入っていく信号には影響がないが、ヘッドフォン、メイン出力からの音がLEVELおよびPANによって変化するようになっている。
それに対し、Streamingモードでの信号の流れを表すのが下図だ。
この場合は、INPUT 1、そしてINPUT 2がミックスされた形でUSBに流れていくが、その際の音量およびPANが設定できるようになっている。
Streamingモードという名前からも分かる通り、OBSなどへ送る場合、こちらのモードを使うことになる。とくに24bitで使う場合は、このレベル設定が効いてくる。なお、LOOPBACKボタンも用意されていて、これをオンにすれば、PCで再生した音をUSBへ戻すことができる。
音質性能とレイテンシーを測定。レイテンシーはやや大き目
音質性能、およびレイテンシーはどうなっているのか。いつものようにRMAA Proを使ってチェックしてみた。ここでは32bit floatではなく24bitで設定している。44.1kHz、48kHz、96kHz、192kHzの結果は以下のとおり。
これらを見てもわかるが、周波数特性の性能は良好で、低域から高域まで本当にフラットになっている。またノイズレベルは極めて低く、この2点においては申し分のない結果と感じた。
一方で、THD+Noiseを見ると、1kHzの高調波が結構出ているように見える。さらにIMD測定結果も、ほかのオーディオインターフェイスと比較するとイマイチな状況。とはいえ、32bit floatのメリットの大きさを考えれば、それほど気にするものではない。
次にレイテンシーの実験も行なってみたが、これは普段使っているCentranceのASIO Latency Test Utilityだとうまく測定できなかったため、フリーウェア・RTL Utilityを利用した。
44.1kHz、48kHz、96kHz、192kHzのそれぞれで、バッファサイズを最小の状態でレイテンシーを測定。44.1kHzのみ、バッファサイズ128 Sampleでも測定した。
どのサンプリングレートでも、最小16sampleまで縮められるのはいいが、サンプリングレートが低いと30msec程度(44.1kHz時)とかなり大きなレイテンシーとなってしまった。
以前テストしたZOOM「UAC-2」(記事参照)は、96kHzでわずか2msecと、数多くあるオーディオインターフェイスの中でも最速の数値だったのに対し、本機は少し様子が異なる。「レイテンシーは大き目」だという事は、ZOOMの開発陣からも聞いていたのだが、Dual DAC設計なども関係してなのか、レイテンシーが少し大きいという点は利用時に考慮しておくとよいだろう。
とはいえ、32bit floatが利用できる唯一無二のオーディオインターフェイスとして、使い方をいろいろ探ってみると面白そうだ。
からの記事と詳細 ( 遂に発売、世界初“ゲイン調整不要”なUSBオーディオ「UAC-232」を試す【藤本健のDigital Audio Laboratory】 - AV Watch )
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科学&テクノロジー
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