ハッブル宇宙望遠鏡を使った観測から、はるか彼方の銀河の中に、これまでに観測された恒星の中で最も遠く、最も原始的であると思われる恒星が見つかった。
3月30日付けの学術誌「ネイチャー」にこの発見についての論文を発表したNASAのジェイン・リグビー氏は、「単独の恒星としては、過去の記録を大幅に塗り替える遠さです」と言う。「初期の宇宙に存在していた大質量星がどのようなものであったのかを研究する絶好の機会となるでしょう」
この恒星は、トールキンの作品の登場人物にもあしらわれた、「明けの明星」または「昇りくる光」を意味する古英語にちなんで「エアレンデル(Earendel)」と呼ばれている。エアレンデルは地球の129億光年先にあり、ビッグバンからわずか9億年後の恒星で、初期の宇宙が暗黒時代から脱した直後の、最初の銀河が成長・進化してきた時代のものだ。これまでの最遠記録だった恒星「イカロス」のビッグバンから43億年後という数字と比べると、桁違いに古くて遠い。(参考記事:「あの「エルフ語」はなぜ、どのようにつくられたのか」)
宇宙の拡大鏡、重力レンズ
遠方の宇宙を研究することは、時間をさかのぼることに似ている。天体から出た光が宇宙を旅して地球に到達するには時間がかかるため、科学者たちが見ている恒星や銀河の姿は、何百万年も、何十億年も前のものだ。科学者たちは、最先端の望遠鏡を導入しつつ、時空の深淵を探る巧妙な方法も次々と開発している。
今回の観測では、天文学者たちは初期の宇宙を覗き見るために、ハッブル望遠鏡をWHL0137-08という質量の非常に大きい銀河団に向けた。こうした銀河団は、重力によって周囲の光を湾曲させる重力レンズ効果によって、背景の天体を拡大(増光)して見せてくれることがある。
「宇宙再電離重力レンズ銀河団探査(Reionization Lensing Cluster Survey:RELICS)」プロジェクトは、これまでの10年間、41個の重力宇宙レンズを使って、宇宙に最初の明かりが灯った時代の天体を探し、遠方の恒星、銀河、超新星、クエーサーと呼ばれる非常に明るい天体などを発見してきた。
重力レンズ効果によって拡大された銀河は、光が湾曲して特徴的な弧を描いているように見える。エアレンデルは、このようにして拡大された銀河の1つである「サンライズ・アーク(日の出の弧)」の中で見つかった。
論文の筆頭著者である米ジョンズ・ホプキンス大学のブライアン・ウェルチ氏は、サンライズ・アークの細長い三日月型の弧について「宇宙誕生から10億年以内という非常に遠方の銀河が描く弧としては、最長のものです」と説明する。
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