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Wednesday, October 13, 2021

進むガンダムのメインカルチャー化 社会的アイコンとしてバンダイナムコが描くサステナブル戦略とは - ITmedia

 今や国民的キャラクターといえる機動戦士ガンダム。1979年に始まったアニメシリーズが大ヒットしていることに続き、80年から発売されているプラモデルは「ガンプラ」と呼ばれ、累計出荷数7億個を超える社会的ヒットとなった。

「ガンプラ」と呼ばれるプラモデルの累計出荷数は7億個を超えた(以下ガンプラは © 創通・サンライズ )

 さらに等身大の立像もお台場や横浜をはじめとする各所に建てられている。ガンダムの版権を有するバンダイナムコグループにとっても重要な戦略の1つとなっていて、2020年度のガンダムのIP(知的財産)別売上高が前年度比21.6%増の950億円となり、過去最高となった。

2021年3月期のバンダイナムコグループのIP別売上高

 ガンダムシリーズが始まった1979年から40年が経過したことから、他のキャラクターコンテンツやブランド商品とのコラボも積極的に展開している。例えば2019年からは、同じく国民的なキャラクターサンリオのハローキティとのコラボが進められているほか、20年12月にはコカ・コーラの缶コーヒー「ジョージア」とコラボしたデザインの缶が発売。さらに、9月27日からは、ナイキの一ブランド「ナイキSB」のシューズとのコラボ商品を米国で発売した。

お台場に登場

 アニメの中だけの“兵器”だったガンダムを現実のものにしてしまおうという取り組みも進んでいる。09年7月から8月にかけて東京・お台場の潮風公園では期間限定で実物大ガンダム「RX-78-2」が展示されたのを皮切りに、12年4月から17年3月にかけて、同じく「RX-78-2」が同じくお台場のダイバーシティ前に設置。17年9月からは同地でユニコーンガンダム「RX-0」が展示されている。

 お台場以外でも実物大ガンダムのプロジェクトが進められていて、20年12月からは横浜・山下埠頭で「RX-78 F00 ガンダム」の展示も始まっている。全身が稼働しないお台場の立像とは異なり、こちらは各部が動くのが特徴だ。22年3月末までの展示が予定されている。

東京・お台場の潮風公園では実物大ガンダムが展示されている(筆者撮影)

 お台場と山下埠頭……どちらもデートスポットで名高いエリアである。その狙いについて、バンダイナムコグループCGOで、バンダイナムコエンターテインメントの藤原孝史・常務取締役はこう語る。ちなみに、CGOとはチーフガンダムオフィサーの略で、ガンダムIP(知的財産)の事業統括者だ。

 「ガンダムをバンダイナムコグループという一グループのIPから、SP(Social Property/社会的アイコン)にしていくのが狙いです。ガンダムの立像計画に関しては、この他にも進めていますが、その設立の過程で多くの企業に協力いただいており、どの企業にもガンダムが好きな担当者がいらっしゃいました。シリーズ自体40年以上にわたって展開していますから、今や一般企業の決裁者、管理職にも理解のある方が増えてきていることを実感しましたね」

バンダイナムコグループのチーフガンダムオフィサーで、バンダイナムコエンターテインメントの藤原孝史・常務取締役

今や「子どものおもちゃ」ではない

 かつてビートルズやローリングストーンズは「不良の音楽」と呼ばれていた。だが、今や音楽の教科書にも載り、「メインカルチャー」の仲間入りを果たしている。同様にガンダムも、今や「子どものおもちゃ」ではないのだ。立派な観光資源でもあり、メインカルチャー化が進んでいることの現れといえるだろう。

 このように、ガンダムが持つ社会性は年々増している。そこでバンダイナムコグループはガンダムに関する新たなサステナブル活動を展開している。サステナブルな取り組みの一環であるSDGsは国連が2015年に採択した30年までの具体的な開発目標のことだ。持続可能な開発を念頭に置いていて、17の世界的目標、169の達成基準、232の指標から構成されている。製造業を中心に国内でも多くの企業がこれに沿った動きを進めていて、ガンダムも例外ではないというわけだ。

 具体的な一例が、バンダイナムコグループが進める「ガンプラリサイクルプロジェクト」だ。ガンプラはユーザーが「ランナー」と呼ばれるフレームからパーツを分解し、自ら組み立てていく特徴がある。完成物であるフィギュアは飾られ、基本的には廃棄されない一方、ランナーをはじめとする廃材は捨てられてしまう。だが、これらはほとんどプラスチックでできており、リサイクルが可能だ。

ガンプラリサイクルプロジェクト(バンダイスピリッツのWebサイトより)

 SDGsの持続可能な開発の考え方は、実はガンダムの作品テーマにも通じる。ガンダムではシリーズを通して作中で必ずといっていいほど人類による環境破壊が描かれていて、どうすれば人類が地球に住み続けられるかをテーマの一つとして描いているからだ。

 6月に同社は「第1回ガンダムカンファレンス」を都内で開いた。専門家を集めたサステナビリティに関するトークセッションでは、筑波大学准教授でピクシーダストテクノロジーズCEOの落合陽一さんと、慶應義塾大学政策・メディア研究科教授の蟹江憲史さんが登壇した。

 ガンダムにも詳しい落合陽一さんは、「1970年代の背景として人口爆発やローマクラブの『成長の限界』などの問題が提起されていて、富野由悠季監督がSFの世界観を創る上で参考にしたのではないでしょうか」と持論を述べた上で、「その実際の問題として、グローバルサウスに押し付けているSDGsの問題があって、アフリカの貧困をどう考えるかとか、われわれは発展途上国から搾取し続けるだけなのかというのが非常に重要なテーマだと思っています」と振り返った。

 そして落合さんは、その問題を解決するカギとして、社会でイノベーションを起こすガンダム世代が増えてきている現状から、こうしたプロシューマー(編注:生産者(Producer)と消費者(Consumer)が一体化した、新しい人間像)と、今後うまく連携していくことが重要ではないかと訴えた。

 また、蟹江教授はSDGsの専門家としての立場から、ガンダムイノベーションの取り組みをこう評価する。

 「ガンダムで描かれる世界は未来の最悪シナリオの一つ。地球に住めなくなってしまってどうするかというお話なのですが、そのメッセージをくみ取って、ガンダム好きの現役世代によるイノベーションにつなげていってもらいたい。SDGsはそうならないためのシナリオです。ガンダムの世界を避けるためにガンダムを扱うという変な話にはなるのですが、そうなるといろいろな可能性が出てくるのではないでしょうか」

落合陽一さん「オープンイノベーションはすごくありそう」

 今後の世界の展開について、落合さんはこう分析する。

 「『逆襲のシャア』の中に人の脳活動や精神を読み取ってガンダムを動かす技術があるのですが、これは今の世界でも同じ研究が盛んに進んでいます。こうしたオープンイノベーションはすごくありそうだと思います」

 こうした未来の実現に向け、バンダイナムコグループでは現在、「ガンダムオープンイノベーション」と題した企画を企業・団体・個人を問わず公募している。パートナーとして採択されると、ガンダム公認の事業としてバンダイナムコグループなどによる多様な支援を受けることが可能だ。同社はガンダムのIPを25年にグループ売上高1500億円規模に成長させる目標を掲げている。ガンダムをIPからSPに広げる取り組みは続く。

バンダイナムコグループでは「ガンダムオープンイノベーション」と題した企画を企業・団体・個人を問わず公募している(ガンダムオープンイノベーションのWebサイトより)

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