さる2月10日(日本時間)、アラブ首長国連邦(UAE)の探査機「HOPE」(アル・アマル)と中国の探査機「天問1号」が、相次いで火星を周回する軌道に投入されました。
HOPEはUAE初の火星探査機。昨年7月に日本の鹿児島・種子島宇宙センターからH2Aロケットで打ち上げられました(写真)。このたびは、27分間のエンジン噴射を経てブレーキをかけ、火星を周回する軌道に入りました(図1)。UAEでは、さらに軌道の調整を重ね、最終的には55時間周期の軌道(高度2万2000キロ~4万3000キロ)へと変更します。そして、搭載した三つの観測装置(赤外分光器・紫外分光器・イメージャー)を用いて、火星大気中の水素や酸素の分布を分析し、気象データを2~3年かけて収集します。
建国50周年を迎えたUAEは石油産出国として有名ですが、石油依存から脱却した科学技術立国を目指しており、宇宙開発に力を入れていて、2019年には初めて自国の宇宙飛行士を宇宙へ送ったほか、24年までに月面探査機を着陸させる計画も進めています。2117年までに人類が火星に移住するための都市建設計画も発表しているんですよ。
他方、中国の天問1号は昨年7月に中国・海南島の文昌衛星発射場から長征5号ロケットで打ち上げられたものです。今回は、15分のエンジン噴射によって中国初の火星周回機となりました。天問1号は周回機・着陸機・探査車から構成されていて、今後軌道の調整や着陸予定地点の観測を行った上で、2021年5月から6月にかけて、着陸機と探査車をユートピア平原に軟着陸させる計画です。軟着陸に成功すれば、探査車で地質の特性などを調査する予定です(図2)。
「天問1号」で注目すべきは、今回の打ち上げで火星の「周回」「着陸」「探査」を一挙にやろうとしていること。これまで火星探査を行ってきた米国、旧ソ連、欧州、インドなどは、それぞれ段階を踏みながら計画を進めてきただけに、月探査の「嫦娥」計画などで経験を積んだ中国の自信のほどがうかがわれます。
なお、この2機とほぼ同時期に打ち上げられた米航空宇宙局(NASA)の火星探査車「パーシビアランス」も日本時間の19日に火星に無事着陸。こちらはまた近いうちに詳しくご報告しましょう。
的川泰宣(まとがわ・やすのり)さん
長らく日本の宇宙開発の最前線で活躍してきた「宇宙博士」。現在は宇宙航空研究開発機構(JAXA)の名誉教授。1942年生まれ。
日本宇宙少年団(YAC)
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「的川博士の銀河教室」は、宇宙開発の歴史や宇宙に関する最新ニュースについて、的川泰宣さんが解説するコーナー。毎日小学生新聞で2008年10月から連載開始。カットのイラストは漫画家の松本零士さん。
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