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Tuesday, December 1, 2020

新型コロナウイルスに対する4種類の抗体検出試薬の開発に成功 1時間で最大240テストの測定が可能に | 横浜市立大学 - デジタルPRプラットフォーム

抗体検出試薬(NP-IgG)
全自動化学発光酵素免疫測定装置 AIA-CL2400(東ソー株式会社)
研究の背景
 横浜市立大学では、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の令和2年度ウイルス等感染症対策技術開発事業(経済産業省補正予算「ウイルス等感染症対策技術の開発事業」)として「新型コロナウイルス抗体検出を目的としたハイスループットな全自動免疫測定方法の開発及び同測定方法の社会実装に向けた研究(研究代表者:学術院医学群 臨床統計学 教授 山中竹春)」を5月より開始してきました。今回、分担機関である東ソー株式会社、関東化学株式会社と共同で、SARS-CoV-2に対する抗体を迅速に検出可能な4種類の抗体検出試薬の開発に成功しました。

 一般的に、ウイルスに対する抗体は、以前にウイルスに感染した人、もしくはワクチンを接種した人の血液中に存在します。ウイルスに対する抗体は発症後約1〜2週から陽性になることが知られており、PCR検査や抗原検査と異なり、陽性であっても検査時点でのウイルス保有を意味するものではありません。SARS-CoV-2に対しては、ウイルスのヌクレオカプシド(NP)抗原、もしくはスパイク(SP)抗原に対する免疫グロブリン(Ig)を検出するさまざまな簡易キットが販売されていますが、2020年11月現在、日本国内において体外診断用医薬品として承認を得た抗体検出法はありません。

 全自動抗体検出法としては、例えば、「ARCHITECT® SARS-CoV-2 IgG」(アボット社)、「Elecsys® Anti-SARS-CoV-2」(ロシュ社)などがあり、アボット社はNP抗原に対するIgG量、ロシュ社はNP抗原に対する全免疫グロブリン量(Total Ig)を検出可能です。いずれも専用の大型機器が必要なため検査実施機関が限られていますが、米国FDAの資料によれば、いずれも感度100%、特異度99.6〜99.8%と信頼性の高い検出法となっています。しかしながら、NPまたはSP抗原に対するIgGおよびTotal Igを一機種で検出できる全自動免疫測定システムはこれまでに存在しませんでした。

研究の結果
 抗体検出試薬の測定原理としては、図1に示すように、IgGでは磁性微粒子に固相化されたウイルス抗原と検体中の抗体が反応し、さらに酵素標識抗ヒトIgG抗体が結合し、標識酵素が化学発光基質を分解することで検体のIgGを検出します。Total Igでは磁性微粒子に固相化されたウイルス抗原が検体中の抗体と結合し、さらに酵素標識ウイルス抗原が結合後、標識酵素が化学発光基質を分解することで検体のIgG含む総免疫グロブリンを検出します。共同研究グループは、SARS-CoV-2のNP抗原とSP抗原を独自の技術により作製し、これらを東ソー株式会社のAIA-CL2400あるいは同等機種の専用試薬としての最適化を進めました。これにより、計4種類の抗体(NP-IgG, SP-IgG, NP-total Ig, SP-total Ig)が一機種で検出できるようになりました。結果報告時間は15分で、迅速に結果を得ることもできます。

図1 抗体検出試薬の測定原理

 横浜市立大学でSARS-CoV-2流行以前に収集された健常人血清1000例(バイオバンク室)とPCR陽性が確認されたSARS-CoV-2感染者の発症後13日以降の血清153例を用いた検討の結果、4種類の抗体検出試薬は、感度・特異度ともに100%の検出性能を示しました(図2)。また、本試薬を用いて測定された抗体価は、アボット社やロシュ社の機器で測定された抗体価と高い相関性を確認しました。これらの結果から、今回開発した抗体検出用試薬は、既存海外メーカー製のものと同等以上の性能を示すと考えています。

図2 NP-IgG, SP-IgG, NP-total Ig, SP-total Igの検出率 (図A〜D) および感度・特異度 (図E〜H)

今後の展開
 これらの技術を用いて、本年9月より新型コロナウイルス感染症(COVID-19)から回復された方を対象に大規模な抗体検査プロジェクトを実施しています。今後、これらのデータが示す意義について検証することで、COVID-19に対する免疫反応の解明につながることが期待されます。
 本研究におけるデータ収集や解析、本検出システムで得られた結果に基づいたCOVID-19発症や重症化、治療効果予測、感染防御能との相関等について引き続き検証を行い、今後も、臨床検体の分析を通じた本抗体検出法の実用化に向けて、開発した測定システムが速やかに社会実装されることをめざします。将来的には、疫学研究の実施や、パンデミックに備えた技術開発につながることが期待されます。

 東ソー株式会社では上記4試薬(研究用試薬)の製品開発を進めており、NP-IgGおよびNP-Total Igは2020年12月2日より販売開始いたします。
※上記の研究用試薬および装置の概要については、東ソー株式会社バイオサイエンス事業部製品ホームページをご覧ください。https://www.diagnostics.jp.tosohbioscience.com/immunoassay

※研究成果の一部は、プレプリントサーバーmedRxiv*2にて2020年11月4日に公開されました。
投稿論文
Development of an automated chemiluminescence assay system for quantitative measurement of multiple anti-SARS-CoV-2 antibodies
Sousuke Kubo, Norihisa Ohtake, Kei Miyakawa, Sundararaj Stanleyraj Jeremiah, Yutaro Yamaoka, Kota Murohashi, Eri Hagiwara, Takahiro Mihara, Atsushi Goto, Etsuko Yamazaki, Takashi Ogura, Takeshi Kaneko, Takeharu Yamanaka, Akihide Ryo
doi: https://doi.org/10.1101/2020.11.04.20225805
(※お断り:現在、学術雑誌へ投稿されたCOVID-19に関する論文は審査前にプレプリントサーバーへ登録、公開されるよう推奨されています。学術雑誌での審査により論文内容が修正される可能性があります。)

用語説明
*1免疫グロブリン
免疫グロブリンは抗体としての機能と構造を持つタンパク質の総称で、IgG、IgM、IgA、IgD、IgEの5クラスに分かれています。
*2 medRxiv
コールド・スプリング・ハーバー研究所と医学系雑誌出版社BMJ、米・イエール大学の3機関共同運営による医学分野のプレプリントサーバーで、査読前の医学分野の論文を掲載し、新しい知見の迅速な共有やフィードバックを受けるためのプラットフォームを無料で提供するサービスです。

<参考>
日本医療研究開発機構(AMED)「令和2年度ウイルス等感染症対策技術開発事業(実証・改良研究支援)」について
COVID-19の世界的な流行を受け、簡易・迅速かつ分散的なウイルス検査、感染拡大防止に向けたシステム、重症患者等に向けた治療機器等の開発への期待が高まっていることを踏まえ、この度、感染症の課題解決につながる研究開発や、新型コロナウイルス感染症対策の現場ニーズに対応した機器・システムの開発・実証等の支援を実施するものです。

経済産業省令和2年度補正予算「ウイルス等感染症対策技術の開発」事業について
新型コロナウイルス等の感染症対策のための医療機器・システム等の社会実装を⽬指し、課題解決につながる研究開発や、新型コロナウイルス感染症対策の現場のニーズに対応した機器・システムの開発・実証等を支援するものです。

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