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Tuesday, December 8, 2020

2000種類の商品をVR遠隔陳列 ローソンが導入した“ロボット店員”がつかむ未来 - ITmedia

 9月に開業した東京ポートシティ竹芝。その一角に、遠隔操作ロボットが商品を陳列する「ローソン Model T 東京ポートシティ竹芝店」がある。ロボットは、Telexistence社(テレイグジスタンス、TX社)が開発した小売り店舗用の「Model-T」だ。店舗はTX社の子会社が直接、加盟店オーナーとして運営している。

 ロボットによって、少子高齢化や就労人口の減少による人手不足といった社会課題解決に貢献することを目指す。ファミリーマートでもModel-Tの試験運用が行われており、来年には本格導入される予定だ。Model-Tの特徴、目指すところについて、TX社の富岡仁CEOに話を聞いた。

2000種類の商品をどうやってつかむか

 一般に商品陳列業務は、コンビニの全業務の2〜3割、スーパーだと4割近くを占めるという。東京ポートシティ竹芝店では、VR端末を装着したスタッフがModel-Tを遠隔制御し、商品を陳列している。Model-Tが並べているのは、売上に占める割合が多い弁当や飲料だ。

 店舗に配達され、所定の場所に置かれたパレットをロボットが取りに行き、自ら運んでバックヤードで陳列する。来年からは店舗内での陳列も行う予定だ。通信はWi-Fiで、内蔵するバッテリーか有線給電で動く。

photo おにぎりやペットボトルをつかんで陳列するModel-T=Telexistence社の動画より
photo VR端末を装着したスタッフが遠隔操作している=Telexistence社の動画より

 Model-Tが陳列を担当している商品は約2000種類。形状が異なるものは、200以上もある。これらの商品に対し、1種類のロボットハンドで対応するために、「機械工学的にどのようなロボットハンドを作らなければいけないか」という洗い出しに苦労したという。富岡氏は「200もの形状のために200種類のつかみ方ができる手なんて作れません」と指摘する。

 産業ロボットでは、つかむものに対してロボットハンドを丸ごと変えるアプローチを採ることが多い。「それだとハンドを取り換える時間も含めて、時間がかかりすぎます。あくまでロボットハンドは変えずに、手の動かし方でつかみ方を変える機械をどう作ればいいのかを考えています」

 実は、つかむことが難しいものは「特にない」そうだ。富岡氏は「ある一つのものに特化したハンドを作るなら、いくらでも作れます。どちらかというと、1種類のハンドでどれほど異なる形状の商品をつかめるようにするかの方が難しいです」と話す。

 Model-Tは、コンビニの狭い店舗内でも陳列作業を行えるよう、ロボットの胴体、アームに22自由度の関節を搭載している。関節と関節の間の長さ(リンク長)についても、無限の組み合わせの中から、一番効率的なものを選んでいかなくてはならない。「そんなことをやっているロボットメーカーは、この世にないと思います。挑戦しないと分かりませんし、難しいです」

photo Telexistence社のニュースリリースより

 通信の遅延も課題だ。遅延が多いと“VR酔い”してしまう。「だいたい200ミリ秒を超えると、操作している人がVR酔いになってしまいます。200ミリ秒以下でも遅く、やはり100ミリ秒以下に抑えたいです。われわれは伝送する映像のコーデックも内製していて、KDDIと協力して行った映像伝送では、最速55ミリ秒を達成しました。VR用の3次元の映像伝送で60ミリ秒を切るというのは他にないと思います」

 それでも、一連の動作で映像をやりとりしていると、ほんの少しの遅延でも積み重なれば操作に影響を与えるほどになる。1ミリ秒の超低遅延を実現する5Gには大きな期待を抱いているという。

機械学習で、軌道計画の自動生成を目指す

 ロボットはインターネットがあればどこからでも操作できるが、現在はTX社のオフィスから遠隔操作している。現時点ではテスト段階なので、ロボットを動かすときは操作を担当する人間が張り付いて動かしているが、最終的には遠隔操作ではなくて自動化する計画だ。

 「あくまで必要なときだけ人が動かすようにしたいです。そのためには、人が直感的に操作したロボットの制御データが非常に重要になります。制御データを機械学習させて、ロボットの動く軌道計画を自動生成するべく、データを収集している最中です」(富岡氏)

 TX社は、ロボットが工場の外で使われる世界を目指している。そこで問題になるのが、コンピュータビジョン(コンピュータによる映像の認識や解析)と軌道計画の自動生成だ。人間は物体のどこをつかめばいいかが直感的に分かる。しかしこの“どこをつかめばいいのか”を、コンピュータはまだ正確に抽出できない。現在、ロボットを人が遠隔操作しているのはこのためだ。

 また、工場以外の実環境で動くことに適したロボットも少ない。実は工場はロボットに最適化された環境だ。ロボットに軌道の空間座標を教え、プログラミングして動くようにする。ロボットは工場という不変の環境で、ひたすら同じ動きを素早く繰り返し行う。この場合は1度、プログラムを作れば済むが、それ以外の環境だと変化するので、変わった瞬間に軌道計画をもう一度やり直さなければいけない。そのコストが非常に高いという。

 そこで「1つ1つ空間座標を打ち込まなくても、人が制御したデータを機械学習することで軌道計画を自動生成し、オートメーション化することを目指しています」と富岡氏は話す。

 現段階では人が遠隔操作しているロボットでも、再来年ごろには自動で動く状況になるかもしれないという。とはいえ、環境は変化するものなので「人の操作が完全になくなって100%自動化されることはない」と富岡氏はいう。「何か新しい変数が入ってきたときには人が操作する、ハイブリッドのオペレーションになります。割合はともかく、人間がコントロールする部分は残ると思います」

photo Telexistence社のニュースリリースより

“余剰の世界”で人がどう生きるのか見てみたい

 Model-Tの導入で、人がする作業のどれくらいをカバーできるかというデータは出てきているという。「狙う数値を出すために、変えるべきところは把握しています」

 TX社のWebサイトでは、Model-Tの作業中の動画を見ることができる。ゆっくりとした動作だが、もっと速くなるそうだ。ただ、「人と同じスピードで動く必要は全くない」と富岡氏。「例えば、お客さんの来る7時までに商品を陳列しなくてはいけないというとき、人間だったら30分でできるでしょうが、人と同じ30分やる必要はなく、7時までにやり終えればいい。そのレベルには到達できます」

 店舗スタッフからは、商品が売れた後、奥の商品を前に出してきれいに並べる前陳業務ができないか、掃除ができないかといった要望も上がっているという。これらについて、技術的には可能だという。後はコストとメリットのバランスの問題だ。

 TX社としては、人と同じ器用さを持ったロボットの手を作るという明確な長期目標がある。しかし、人の手の器用さを持った機械を作るには、手の関節で動くアクチュエータやモータをより小さく、一方でよりトルクが出るようにする必要がある。「これは物理法則に反しているので、素材を変えるとか、根本的な科学の問題になっていく」と富岡氏は指摘する。

 さらに長期的には、宇宙に人の活動が広がっていく過程の中で、遠隔操作ロボットが活躍する世界がやってくると展望している。「例えば月にいるロボットを地上から遠隔操作する。宇宙との通信になるので、インターネットとはまた違う話になりますが、そういうタイミングは遅かれ早かれ来ます。TX社としてそのシーンに携わっていたいです」

 モノをつかんで置くという作業は単純で、付加価値の低い仕事だ。そうした作業はキツいものが多く、富岡氏は「人がやるべきではないという考えを持っています。それをオートメーション化したいです」と話す。少子高齢化が進む日本では、間違いなく需要があるはずだ。

 「人間は食べるために働いていますが、それを早く終わらせたいです。ロボットが低付加価値の仕事を担い、人間の時間が余剰になったときに、人はどう生きていくのか。次の社会の在り方を見たいと思っています」

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